『小暮写眞館IV: 鉄路の春』の
イラストブックレビューです。
英一の父親が家出した。
実父の危篤の連絡を受け、行くかどうかで母親とケンカしたという。
それをきっかけに、2人は幼くして亡くなった妹、風子について話し合う。
また、垣本順子の過去も明らかになり…。
かわいい盛りに、妹風子は、インフルエンザ脳症で幼い命を亡くしました。
英一は記憶を引き出しにしまっていたが、父親と当時の事を話し、
引き出しの中からひっそりと思い出を取り出したのです。
風子を亡くした事を親戚連中から責められる母。
それを庇いながらも、身内との縁を断絶する事を決めた父。
1番小さな弟の看病疲れで数時間寝てしまい、その間に症状が悪化したために、
自分が風子を死なせた、と思っている母。
その大変な時に、出張で母のそばにいてやれなかったから、風子の死は
自分のせいだ、と言う父。
当時は赤ちゃんだったけど、自分の病気のせいでお母さんはお姉ちゃんを見る事が
できなかったから死んだ。ふうちゃんはきっと僕の事を怒っている、と
感じている弟。
そして、夜中に目が覚めて風子の様子が変な事に気づいたが、母も看病疲れで
寝ているし、明日でいいか…と判断したから風子が死んだのは自分のせいだと
思っている英一。
一家は皆自分のせいで風子が死んだと思っているのです。
お前のせいじゃない、自分が悪いんだから…と家族に言いながら。
自分が傷つきながら、互いを守ろうという気持ちが溢れている家族の様子は
やさしく、そしてせつなくて悲しいです。
それでも、各自の膿を出し合った後、家族は新たな局面を迎えます。
英一は、花菱家長男として、いや1人の男として、断絶した親戚の前に出向き、
今までの思いを吐きだします。
それは英一が、花菱家に属した子供から、守る側に立った瞬間だったのだと
思います。1巻から比べて、何と大人になったことか。
一連の出来事を経験して、英一は大人社会へ飛び込み、わからないなりに
動き回り、そしてどうにか1人で歩いていけるようになった成長の物語なのかなと
思います。
垣本順子の過去も明らかになります。
英一との関係は、淡く、ハッキリしたものではありませんが、少しずつ
距離が近づいていったようです。英一は、垣本順子内面をいつも見ていたように
感じます。彼女の中の儚さや弱さに惹きつけられていったのかなと。
家族や人とのつながり、悲しみを伴う優しさ。
生きていくには人とのつながりは避けては通れないことです。
英一は、そんなやさしさをいつも感じる事ができるから、人にも優しく
できるのだと思います。
少しの寂しさを感じつつ、とっても満足できた最終巻でした。