ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ゆるやかな昭和の空気が漂う 酒呑み風景

作家の酒』の

イラストブックレビューです。

 

作家の酒 (コロナ・ブックス)

作家の酒 (コロナ・ブックス)

 

 井伏鱒二池波正太郎三島由紀夫赤塚不二夫星新一など
26人の作家が愛した酒やつまみ、お店などを写真とエッセイで綴る。

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議論しながら飲む、散歩の途中で飲む、ぶっ倒れるまで飲む、
スマートに飲む…
とまあ、作家の数だけ酒との付き合い方もあります。

中でも印象に残ったエピソードは、立原正秋氏にまつわるもの。
ある日、仕事の区切りがついた立原氏が長男の潮さんに酒を飲もう、と誘います。
潮さんがつまみ担当で、昼に食べたすき焼きの残りにネギを再投入することを
思いつき、準備します。

戻れば立原氏が酒器の用意をして待っています。
そこには、一合ほど入る粉引きの徳久利と明川の盃がふたつ。
酒を飲みながら、夏ならばどんな酒器が良いか、という話になります。
立原氏は青磁のようなキリッとした器がよかろう、と言います。
もっと大ぶりな器ではどうか、と提案する潮さんに、
あれでは、飲み過ぎてしまう。それに緊張感が伴い酒が美味しくなくなる、
と答えます。

お酒を飲む時には、お気に入りの酒器でゆっくりと嗜んでいるのだろうな、
と感じさせるエピソードです。立原氏はいくら飲んでも乱れることはなく、
また、酒に酔って女を口説いたり愚痴を言う人間を嫌ったそうです。
綺麗に飲む方だったのでしょうね。素敵です。
器を含め、お酒を飲む時のたたずまい、といったものを大切にされていたのかなぁ、
なんて思いました。

他にも優雅だったり、ほぼアル中だったり、陽気だったりと
酒との付き合い方は本当に様々です。
都内にも現存するお店がいくつも出てきます。機会があったら行ってみたい
けれども、ゴールデン街なんかは敷居が高いので本を読んで行った気分に
なることにします。

写真に写る作家さんたちは、仲間や酒とともににこやかな表情を
されているものが多いです。時には飲まれてしまう作家さんもいるようですが
どの方にとっても、お酒は大事な存在であった様子がうかがえます。

少し色あせた昭和の香りが漂う、素敵な写真が多数掲載されています。
時間のゆったりとした流れ、そして作家たちの酒やつまみ、店や人への
愛しさが伝わってくるような、素敵な内容です。