ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

1000年かけた恋

ぬしさまへ』の

イラストブックレビューです。

ぬしさまへ (新潮文庫)

ぬしさまへ (新潮文庫)

 

 江戸の大店の一人息子、一太郎が妖怪たちと事件を解決していく
お江戸妖怪奇譚第2弾。

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短編集といえど、心に残る話ばかりで、どれを取り上げようか
迷うほどです。全6話のうち、印象に残った2話をレビューしたいと思います。

まず、 現代女性にもファンが多そうな仁吉の失恋話。
江戸のイケメン仁吉は、外で仕事をして帰れば、袖の中に大量の付け文を
持って帰るような色男。そんな仁吉が思いを寄せていた相手は、同じ妖怪のお吉。
けれどもお吉は人間に恋していたのです。

人間との恋に落ちたお吉ですが、当然人間の方が命が短いため先に死んでしまいます。
けれどもお吉は生まれ変わった相手とめぐり合い、何度も同じ相手と
恋に落ちるのです。

と、なんともロマンチックな設定!少女漫画のように胸やけがしないのは
お吉さんが小股の切れ上がった、美しくカッコいい女性だから。
仁吉も応援したいけどお吉さんにも幸せになってもらいたいよ〜と
身悶えしてしまいます。

同じ相手と何度も恋に落ちて、まったく脇目をふらないお吉さんのそばで
じっと守り続ける仁吉。彼女を守り、見続けて1000年の時がたってしまったのです。
その長い時間に愕然としながらも、恋しい、ただ愛おしくてたまらないのだ、
とお吉への気持を再確認してしまう仁吉。
うおお こんな風に思われてみたーい、と40過ぎのおばちゃんでも
キュンキュンしてしまうのです。仁吉カッコいい。

それと、もうひとつ印象的だったのはこちらの物語。
ある日、一太郎がこっそり出かけて帰ってくるといつもと勝手が違う。
仁助は一太郎に小言を言うこともないし、妖怪たちもどこかへ出かけたのか
姿が見えない。クシャミをしても、誰も床を敷かない。
これが普通なのか、と自分に言い聞かせつつも、妖怪たちが全く
出てこない寝床は静かすぎて落ち着かない…。

他にもいくつかおかしな出来事がおこるのですが、仁吉や佐助たちは
一太郎の周囲に現れるおかしな気配に気づき、罠を仕掛けていたわけです。

正体の一つは、一太郎に思いを寄せていて、店で働いていた娘の思念。
その事を知った一太郎は、大人になりたい、と切に願います。
その娘の気持ちにはどのように返したら良いのかはわからないけれど、
気持ちに気づいてあげたい。そして対応できるように大人になりたい。

とにかく誠実に、そう思う一太郎は本当に心が優しい。
店で働く娘の気持を知ったところで、あくまで従業員のひとり。特別な
感情をその娘に対して持った訳でもない。
関係ないと言えばそれまでなのに、その気持ちを読み取って何か言って
あげたら良かったと思うのです。

この一太郎の優しさ、誠実さは彼の才能です。
この才能に惹かれて、妖怪たちも人間たちも彼を守りたい、サポートしたい、
と思うのではないでしょうか。むろん読者である私も。

事件解決後に戻ったいつもの生活に、一太郎は安心感を覚えます。
仁吉に自分たちのありがたみがわかりましたか?と言われて
真っ赤になって怒るところも可愛らしいくて、つい笑ってしまいます。
この手代たちと一太郎のじゃれあい?も楽しい要素のひとつです。

短編集ですが、どれも人の心に焦点を当てた印象深いものばかり。
何度読み返しても楽しめる、お得感の高い江戸物語です。