『ラスト・ウィンター・マーダー (創元推理文庫)』の
イラストブックレビューです。
連続殺人鬼を父に持つジャズが、ニューヨークで起きた
新たな連続殺人事件に巻き込まれる、シリーズ完結作。
ニューヨークでの殺人犯を突きとめ、犯人に銃で撃たれたところを
父親に助けられるジャズ。親子の最終決戦へのゴングが
鳴り響く。
傷を負い、殺人事件の容疑をかけられたまま、ニューヨークから
最終決戦の場へと向かうジャズ。
痛手を負っている自分の体、そして何よりも、最愛のガールフレンド
コニーにまで傷を負わせてしまったショック。
心も身体もボロボロになりながらも、殺人事件の連鎖を止めなければ
ならないというジャズの信念は、人を殺す悪魔のささやきを常に
耳にしながら、それをふりきろうとする必死の行動なのだろう。
そして、ジャズの幼い頃のぼんやりとした記憶。
この正体を知ったときに、『ああ、神様!』と思わず天を仰いで
しまう。
こちら側に必死にしがみついている彼の最後の砦が、もろくも
崩れる瞬間がそこにはある。それでも彼は、こちら側にいようと
いう意思を捨てなかった。それは、悪魔との取引に彼が勝った
瞬間なのだ。
その意思の選択は、殺人者としての教育を受けた生い立ちを
考えれば、彼を高く評価するべきだ。たとえ、それを選択するに
ともなった行為によって誰かが生死に関わる事態を迎えたとしても。
子供の頃の記憶というものは、かくも人を深く傷つけるものなのか、
とため息が出る。サイコパスである連続殺人鬼である父親、彼は
息子に殺人教育を施しながら、彼なりに息子を愛していると
いうことがひしひしと伝わってくる。と、同時に、このようにしか
愛せないのか、と同時に困惑もする。
ラストはハッピーエンドとは言えないかもしれない。
しかし、最悪な状況のもとで、最適な結末を迎えたと言えるだろう。
主人公のジャズの肩をたたいてあげたい。
かける言葉は見つからないけれど。