ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

見えない何かに絡みとられた人間の足掻き

あなたが消えた夜に 』の

イラストブックレビューです。

 

小さな町で突然発生した、連続通り魔事件。所轄の刑事・中島と捜査一課の
女刑事・小橋は、容疑者である『コートの男』を追う。その男の正体とは。
男女の運命が絡まり合い、事件は思わぬ方向へ加速していく。

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毎日新聞で連載された中村文則氏のミステリ小説です。
連続通り魔事件を追う所轄の刑事、中島は、少年の頃に自分の家が燃えてしまい
ました。呆然と燃える家を見つめる中島に話しかけてきたのはライターを持った
少年。少年は『君が望んだことじゃないか』と言うのです。

中島が刑事となった今でも、その光景はたまに夢に出て、うなされることがあります。
そんな彼と組むことになったのは、警視庁捜査一課の若手女刑事、小橋。
マイペースな小橋と地回りを担当し、職質しようとした相手は血の付いた包丁を持って
いたため、逮捕。連続通り魔の犯人にしては、行動などに違和感を感じる中島ですが…。

自分の中の善意について絶対の自信をもつことができない中島は、他人に対して心を
開ききることはなく、どこか人に踏み込ませない部分があります。それは、犯罪者から
見ても『芯がぶれている』ように感じられることがあるようです。だからこそ、犯罪の
匂いを感じたり、理解する方向に勘が働くのかもしれません。

前半から中盤にかけては事件の発生、犯人と思しき人物の逮捕とその後も起こる事件の様子、そして所轄と捜査一課の縄張り争いや、明らかになっていく事件の全容が描かれています。緊迫した捜査の様子と、小橋のズレた発言でたまに笑いを挟みつつ、テンポよく進んでいきます。

そして、最終章に犯人の独白文という形で事件の全容が明らかになります。
被害者も犯罪者もいろんな人物が関係しています。彼らに共通していることは何かに絡みとられてしまっている、ということ。抜けるに抜けられない、抜けようとすればますますはまってしまう深み。それぞれに足掻いた結果が、犯罪という形になって表面化したのです。

事件に関係した人物たちは、不幸になりたい訳ではないけれど、自分自身は救われなくてもいい、という考えが無意識下に存在するのではないでしょうか。それが双方向に働くのではなく、一方通行に働いたことがこの事件を発生させ、捜査を複雑にさせた原因なのかもしれません。

人を支配する事で感じられる自分の生、支配される苦しみを理解しながらも抜けられない心理、抜け出すよう協力し、力を尽くすも及ばない絶望感。愛と狂気、焦燥と絶望。様々な感情が渦巻く人間ドラマであり、なおかつ緻密に伏線が張られた、とても読みがいのあるミステリです。

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女はちょっとした毒を求めているものなのかも

夫以外 』の

イラストブックレビューです。

 

 

夫が急死した40代女性が夢中になったもの、離婚して子連れで実家に戻ると
父親の再婚話が出ていた30代の女性、戸籍の縛りに長年囚われていた60代の
女性。大人の女性たちの日常に起こる出来事を描く、6つの短編集。

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夫が急死した聖子は48歳。夫との間に子供はおらず、打ち込めるような趣味も
ない。そんな聖子の前に現れたのは、夫の姉の息子、つまり夫の甥。
夫の葬式にも姿を見せず、初めて対面した甥の一樹は28歳のフリーター。
これまで顔を見せられなかったことを説明する姿は、どうやら誠実な人間のように
思えるのですが。友人であり、法律に詳しい荻野さんには、そんな一樹に用心する
ように警告されます。

一樹と遺産についてのやり取りをするうちに、聖子は気づきます。
自分が一樹に夢中になっていることに。しかし、相手は20歳も年下なので、ペットや
夫婦間でできなかった子どものつもりなのだ、と自分に言い聞かせつつも、
一樹が進みたがっている方向についてアドバイスをしたり、資金援助までしようとします。

夫とは仲が良かったが、夫に対して情熱的な感情は一度も持たなかった聖子。
夢中になったアイドルもなし、子どももペットもいない、夫婦二人だけの生活は
とても穏やかでした。夫を失い、ぽっかりと心に穴が空いたようになってしまって
いた聖子は、自分には夢中になれるものがこれまでなかったことに気がつきます。

そこで登場するのが一樹です。彼は若くして夫の遺産の一部を手にすることになり
ます。聖子は騙されているのでは?とヒヤヒヤしながら読み進めていくと、一樹は
どうやら落ち着いた人間のようで、夢を実現すべく地道に頑張っていこうとして
います。そんな一樹のひたむきなところも好ましく感じる聖子は一樹の力になろうとします。

どこに着地するのかなと思いきや、「えっ!そう来たか!」というラスト。
聖子は夢中になれるものを得るために、どうやら高い代償を払うことになったようです。
それが夢の中ならどんなに良かったことか。夢中だからこそ、見えない部分が
できてしまったのかもしれません。

他にも、娘が不倫相手と結婚することになった女性や、離婚して子連れで実家に
帰ったら、父親の再婚話が待っていた、などちょっとフックがかかった大人の
女性たちの日常を描いた短編集です。

何かが引っかかっていて幸福を感じられない女性たち。しかし、その引っかかりは
意外性のあるラストでガラリと質が変わるのです。幸福と不幸は裏返し。そして立場が
変われば、その幸福と不幸は逆転したり、敵だった相手が味方になったり、また逆も
しかり。

とにかくいろんな女性の人生の一部を見せてくれます。幸福とは言えない
状況だったとしても、読んでいて不快にはならず、むしろ爽快さを感じるのは、
彼女たちがその毒を取り込み、それを力に変えていっている事が感じられるからかもしれません。

 

クールな表情に隠された美少女の秘密

 
 
 

「私が笑ったら、死にますから」と、

 水品さんは言ったんだ。 』の

イラストブックレビューです。

 

 

地味で目立たない男子高校生、駒田の隣の席は病弱で、学校を休みがちな美少女、
水品さん。そんな水品さんが、ある日駒田に声をかけてきた。「15分で一万円の
バイトに興味はありませんか?」あやしげなバイトの真の目的と、水品さんが
決して笑わない理由とは。

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クールな美少女、水品さんが駒田に持ちかけてきたバイトとは、駅の売店
雑誌を買い、支持された電車の席に座ってその雑誌を読むというもの。
ぴったり15分で指示された内容は終了し、意味の分からぬままに一万円を
手にした駒田。考えるうちに、この行動の意味に思い当たり、それを水品さんに
伝えた駒田は…。

学校にはあまり来ることがなく無口で笑わない、クールな美人の水品さん。
口調は堅い、愛想なし。でも不意打ちをかけられると動揺する姿が可愛かったり
します。

対する駒田は地味。自己主張するでもなく、友だちがたくさんいるでもなく。
勉強も運動もごくごく普通の目立たない存在です。そんな駒田だからこそ、
水品さんに目をつけられたわけです。水品さんと、謎の美女、ホイミが手がける
仕事での活動は目立たないことが必須なのです。

軽快な駒田の語り口調で、美少女水品さんに振り回される様子がユーモアたっぷりに
描かれています。しかし、実は駒田も、水品さんも、ホイミもそれぞれに心に傷を
負っています。表向きのキャラからは、思いもよらぬような出来事を経験している
三人は、他人の幸せのために力を尽くしていくのです。

冷たい仮面の奥に隠された水品さんの深い悲しみ。その悲しみを少しずつ癒して
いくのは、彼女を大きく包み込むホイミのあたたかさ、そして彼女と共に前を向いて
歩いて行こうする駒田の押し付けないやさしさと強さです。そして水品さんを見守る
ことで、ホイミや駒田にも救われる部分があるのです。

破天荒なキャラクターが登場するドタバタ物語思いきや、不用意に人を傷つける群集の
心理や、日常から希望を見出すということ、生きていくということ、いろんな要素が
ギュッと詰まっています。ネット上で拡散されるニュースや、誰かに起こった不幸な
出来事に対して、嘲りや喜びの気持ちを向けていないか?自分自身に問いかけたく
なるような、気持ちが引き締まる物語でした。

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山奥に潜む 最強の四人の老人

 
 

四人組がいた。 』の

イラストブックレビューです。

 

 

郵便局兼集会所に日がな集まり、毒を吐きながら過ごす四人の老人。
車も滅多に通らない山奥の村で、過去の話や他人の悪口に花を咲かせていると
時おり見慣れぬ客がやってくる。四人組はいい暇つぶしができたとばかり、
客の相手をするのだが…。

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自称村一番の教養人の元村長、自称村一番の常識人の元助役、自称元プレイボーイの
郵便局長、自称元小股の切れ上がった熟女のキクエ小母さん。四人の老人たちが
地元や都会からの人間、そして人ならざるものを相手に大騒ぎするブラックユーモア
短編集。

かつて気球の村として、ちょっぴり盛り上がったこともある村の過去、見慣れぬ若い
女性の保険営業。市長に無理やり依頼され、廃校を利用しての、老人たちによる
幼児保育活動。村出身のアイドルを応援すべく、村からバスで向かう東京旅行…。

賑やかに、老人たちが思うままに自己主張しながら事は進んでいきます。
最初は忘れ去られた山奥の村でひっそりと暮らす、世の中には期待していない、
ちょっぴりひねくれた老人たちなのかと思いきや、なかなかどうして、ウイットの
効いた会話もするし、思いがけず軽いフットワークを見せる事もあるし、何より
好奇心たっぷりでいたずら好き。

そんなお茶目な老人たちの相手となるのは、都会からやってきた人物や、なんと
日頃は山に住み、時に人間に化けてあらわれる「四つ足」などです。老人たちは、
長く自然と近しい場所で暮らしているせいか、そうした人ならざる気配に敏感であり、
その対処法も心得ています。しまいには「四つ足」たちと共に仕事をしたり、遊びに
出かけたりするのですからこれはもはやファンタジーと言えるでしょう。日本昔ばなしのような雰囲気でもあります。

田舎は都会に比べて、娯楽も少なく、刺激もない。そんな退屈な環境でひっそりと
老人たちは暮らしている…のではなくて、田舎の山奥だからこそ起こるもののけじみた
現象や、人ならざるものの存在などを上手に受け入れ、楽しく共生しているのです。
普通では起こる事のない体験の数々に、むしろ、都会よりもパラダイスなのではないかと思ってしまうほど。

しかし、都会で暮らす自分なんかが同じ場所へ放り込まれたら、きっとパニックに
なって楽しむどころではないのと思います。やはり水も甘いも経験し尽くした老人たち
だからこ味わえる楽しさなのかもしれません。

歳を重ねていろんなものを「あり」と解釈して、思うままに突っ走っていく最強の
老人たち。こんな風に生きていることを楽しめるのであれば、歳を取るのも悪くない。
そんな風に思える物語でした。

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その「あん」味わいは人生の深みから生まれる

 

あん』の

イラストブックレビューです。

 

小さなどら焼き店「どら春」で毎日どら焼きの皮を焼き、業務用のあんを
使ってどら焼きを作り、販売している店主の千太郎。バイト募集の張り紙をした
ところ、やってきたのは徳江という高齢のおばあさん。時給200円でいいから、
という徳江を雇う事にした千太郎だったのだが。

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千太郎は「どら春」の雇われ店主。刑務所に服役していて、出所したところを
先代に拾ってもらい、先代が亡くなった後に先代の奥さんの願いで、どら春を
継ぐことになりました。和菓子が好きでもなく、借金を返すために作っていた
どら焼きは、あんは砂糖たっぷりの業務用を使用。そこそこではありますが、
特別おいしいこともなく、売り上げもそれなりです。

そんな千太郎の元にあらわれたのは、指が曲がった76歳の老女、徳江。
バイト募集の張り紙を見て、どら春で働きたい、と言います。高齢であるし、
指も気になり、何とか断ろうとした千太郎ですが、時給は200円でいい、と
グイグイくる徳江に押し切られ、とりあえず雇ってみることに。

徳江が作るあんは、あんが好きではない千太郎の口にもすっと入っていき、
それでいて小豆の風味が広がっていく、深い味わいのものでした。
それまで業務用のあんでやっつけ気味にどら焼きを作っていた千太郎ですが、
徳江のあんを作るために、毎日朝早くから仕込みをはじめます。

徳江のあんを使ったどら焼きは評判を呼び、売り上げは日に日に伸びていきます。
しかし、先代の奥さんは、徳江を辞めさせろ、と千太郎に言ってきます。
徳江は施設に住んでいるハンセン病患者ではないか。食品を取り扱う店が
そんな病気の人間を雇っているなんて問題だ。だからすぐにでもやめさせろと。

千太郎は、自分でもネットでハンセン病について調べます。現在、療養所にいる人
たちはすべて快復者であること。保菌者はいない。うつることはない。
昔は医療環境が良くなかったために、身体の末端が脱落するなどの状況があったこと。

千太郎は過去にあったハンセン病患者に対する壮絶な差別や、自分自身が徳江の指を
見て気になってしまったことを思います。そして、そんな視線を何十年も受け続けて
きたであろう徳江が、あんを作るときにじっと小豆を見つめ、すばらしい味のあんを
作り出してきたこと。

ハンセン病と診断された瞬間から家族と二度と会えず、療養所の限られた世界の
中で生き、外の世界に出られるようになった頃にはすっかり様子も変わり、もとの
家族は亡くなっていたり、共に住むことを否定されたりされたハンセン病の患者たち。
ここには、自分が知らない、日本でありながら日本ではない、そんな世界が描かれています。

絶望とは何か。希望とは何か。生きているとはどんなことなのか。
生きていることに意味はあるのか。
読み進めていくうちにいろんな考えが浮かんできます。
世の中すべてに拒否されたように感じる時でも、月は輝いているし、植物も
何でも「ここにいるよ」と声を発していのです。

そんな発しているものたちの声を聞き取ろうとした徳江は、小豆の声も聞き取り
小豆が良い状態に仕上がるタイミングを図っていたのでしょう。
人生の深みが染み込んだあんの味は、千太郎が継ぎ、そして人々に伝えて
いってくれるのでないでしょうか。多くの人に読んでもらいたい、
深い余韻を残す感動の物語です。

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仕事をするということ、自分と向き合うということ

 
 

この世にたやすい仕事はない  』の

イラストブックレビューです。

 

 

燃え尽きた状態となって前職を辞め、しばらく休んだ後、とりあえず働こうと思い、
紹介してもらった仕事は「誰かを見張る」という仕事だった。新たな発見や自信を
持ったり、やはりダメだと思いながら仕事を通して自分の居場所を見つけていく物語。

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ストレスで仕事を辞めたあと、「一日中コラーゲンの抽出見守るような仕事ありますか?」というふざけた私の質問に、「ありますよ」と言って職業安定所の職員が紹介してくれたのは、隠しカメラ設置した女性小説家の行動を一日中見張るというものでした。

燃え尽きた後ですから、何もしたくない、でも働かなくては、でも気力が…。
そんな状況でのお仕事リクエストは、なるべく人との接触がなくて、動きもあまり
ないもの。それが一日中モニターの前に座り、女性小説家の生活を見張るという仕事だったのです。一見ラクなようにも思えますが、これがなかなか大変そうです。

どうやらこの小説家は、自身がそうとは知らずによろしくないデータが入ったDVDを
人から借りていて、返却せずに持ち続けているようなのです。それがどのDVDであるかを探るのが「私」の仕事で、それをピックアップするまでがこの会社の仕事のようです。

一日中PCの前に座り、キーボードを叩いてみたり、考え込んでいると思えば
うたた寝をしていたり。DVDの山の中から一枚を選んで鑑賞し、スーパーに
買い物に行って、安売りしていた大きなソーセージを食べる。

あまり活動的でない監視対象者ですが、何やら断捨離を思いつき、身の回りの
ものを処分しはじめます。そしてついにDVDの山もダンボールに詰められ、
中古販売店へ出されようとしていたところを報告し問題のDVDを手に入れること
ができたのです。普段の行動を見ていたからこそ、この動きに対応できたのだと
評価された「私」ですが、どっと疲れが出て、契約の更新はせず断ります。

その後は、路線バスの広告文面を考える仕事、おせんべいの袋に書かれた豆知識
的なものの企画と文面を考える仕事、森林公園の一部を管理する仕事、など
気がつかないけれど、世の中にはこういう仕事があるんだな、というなんだか
不思議な仕事ばかりを数ヶ月ずつ経験していきます。

どの職場においても、良い先輩や上司などに恵まれ、大きな失敗などもなく
着実に仕事をこなしていく「私」。会社の方から継続してほしい、というリクエストを
受けることもありました。しかし、その場所に留まることを拒否していたのは
かつて長く働き、燃え尽きた、あの仕事こそが自分がやるべき仕事なのではないかと
心の中で感じていたからのようです。

自分で望んで就いた仕事に全力で立ち向かい、色んな方向からストレス受け、
燃え尽きてしまった。そんな状態では、とても前職に戻る気持ちにはなれない
でしょう。ゆっくりと休み、全く違う環境で、思いもしなかったような仕事をいくつも
経験することで、かつての仕事に対して、自分や周囲を責めることなく冷静に
見つめ直すことができたのではないでしょうか。そして、やはり自分がやっていきたい、やりたい仕事はこれなのだと気づく事ができたのかもしれません。

仕事との距離感は難しいものです。夢中になりすぎて燃え尽きることもあるでしょう。
そんな時は、いったん距離を置き、自分とは関連もなさそうな仕事をしてみたり
目線を変えることで、仕事との距離感を保てるのかもしれません。

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人間関係における贅沢は人類にとって最高の贅沢

 
 

砂漠 』の

イラストブックレビューです。

 

何事にも冷めた目線を持つ北村。仙台市の大学に進学した彼は、四人の学生と
知り合った。少し軽薄な鳥井、不思議な力を持つ南、とびきり美人の東堂、
極端に熱くてまっすぐな西嶋。光に満ち、時に陰を落とす喜びと痛みを描く
珠玉の青春物語。

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大学に入ったばかりで浮かれ騒ぐ同級生たちを、冷めた目線で眺める北村。
そんな彼に声をかけたのは、髪型が鳥を想像させる、その名も鳥井。法学部の同じ
クラスでのコンパでのことでした。偶然中学で鳥井と同じクラスだったという南という
女の子と出会います。一方、男性陣が群がるエリアの中央には素晴らしい美人の東堂が
無表情で座っています。

自己紹介も中途半端になり、間延びした雰囲気になっていた中、ぽっちゃりとして
メガネをかけた男、西嶋が入ってきて、マイクを使って自己紹介します。
世界平和を訴え、麻雀に負けたことを嘆く、めちゃくちゃなのにパワーが
あるその姿にみな圧倒され…というか呆気にとられます。

こうした個性あるメンバーたちが、なぜか麻雀を経由してつるむようになります。
男性陣は合コンに出かけたり。この合コンがきっかけで、鳥井がトラブルに
巻き込まれてしまい、後々まで影響が出るような事態を引き起こします。

春、夏、秋、冬、そしてまた春。
季節を経るごとに彼らの間ではさまざまな出来事が起こります。
彼女ができたり、仲間同志で恋愛感情が起こり、発展したりしなかったり。
警察沙汰になるようなトラブルが起こったり、はたまたそれを解決したり。

主人公の北村は、メンバーに比べるととんがった個性もなく、ごく普通の青年です。
しかし、最初は同じクラスの人間を「必死すぎだろ」などと冷めた目線で見て
いたのに、仲間たちと過ごすうちに、少しずつ変わってきます。そして友人を
守るために熱くなったりもするようになっていくのです。

個性豊かな5人は、メンバーでいるときはとても自由でいられるのではないかなと
感じます。誰かに合わそうという意識は全くなく、互いが、どうあっても
お前なんだからさ、とまるごと認めてくれるようなそんな安心感。それでいて、
べったりと頼る事がなくて、互いが自立しているのです。

素晴らしい友を得た大学生活。卒業式で学長は、学生に向けてこんな言葉を送ります。

人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである

この輝く四年間を、昔は良かった、戻りたいと思うのではなく、この四年間が
あったから今の自分がある。今の自分の支えになった四年間なのだと、そう
感じ続けたい。そんな主人公の決意を感じました。

若者にも、かつて若者だった人たちにもきっと心に響く、何度も繰り返し読みたく
なるような、そんな青春物語です。

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