『あずかりやさん 』の
イラストブックレビューです。
- 作者: 大山淳子
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2015/06/05
- メディア: 文庫
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「1日100円でどんなものでも預かります。」
東京の下町にある商店街のはじでひっそりと営業するあずかりやさん。
紺地に白抜きでさとう、と書かれた暖簾が目じるしです。
様々な事情を抱えたお客たちが、預かって欲しいものを持って
お店にやってきます。
まずあずかりやさん、という職業にびっくりです。
何だそれは??何を預かってくれるのか?ナマモノは?
大きなものは?いろんなことが気になります。
さわりの部分だけで、だいぶひきこまれてしまいました。
店主は目が見えません。それで、お客さんはなんとなく安心して
モノにまつわる話や、全く関係ない話をしたりして、モノを預けたり
預けなかったりします。話している間にやはり手もとに置いて置こうと
思ったりするのでしょう。そんな意味では店主はお客さんに対して
カウンセラーの役目を果たしているのかもしれませんね。
モノを手放さなくてはいけなくなった背景には、お客さんの様々な
事情が絡んでいます。自分が持っていると困るもの、見るのも
嫌なもの、生き方が変わってしまうもの、とっても大切なもの。
お客さんたちは、そのモノをいったん自分の手から離すことで
モノに対する考え方を見直し、時には自分の生き方までも
見つけることがあります。
店主は誠実のかたまりが服を着ているような人間で、大事に
モノを扱います。そして、お客の心もいっしょに預かって
いるようです。お客の心に寄り添い、歩き出そうとする背中を
見守ってあげるような、静かな優しさに満ちています。
短編集なのですが、お話ごとに語り手が変わります。
暖簾、ショーケース、自転車、猫…。
彼らから見た、お客や店主はおもしろく、とっても魅力的に
うつります。そんなファンタジー要素を含みつつ、
こんな店があったら、ぜひ訪れてみたいものだ、と思ってしまいました。
誠実な店主に何を預けようか。そんな事を考えるのも楽しい、
心がじんわりとあたたかくなる、やさしい物語です。