ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

部下に「付いていきたい」と思われる仕事のルール、持っていますか?

苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた 「上に立つ人」の仕事のルール 』の

イラストブックレビューです。

 

バブル期の大阪。新卒の「僕」が就職したのは、
中小規模のビル管理会社。
会社の創業者である会長兼社長、通称オヤジの秘書として
働くことになった僕は、オヤジに怒鳴られながら、
「人の上に立つ人間」としての仕事のルールを学んでいく。

f:id:nukoco:20180421110933j:plain

バブルの時代ですから20年くらい前の話になるでしょうか。
肩にでかいパッドが入ったスーツを身につけ、女性は前髪を
トサカのように立ち上げ、何ともゴージャスで浮き足立った
世の中でした…って語れる自分も歳取ったなあと感慨深い
です。

そんな時代を背景にして、経営者であるオヤジが新人に
仕事のルールを教え込んでいきます。
章ごとにストーリーがあり、その出来事を元に僕の学びを
章の終わりにまとめて表記していくスタイル。

例えば皆を巻き込め、という章では報告書の改善案を作成した
僕に対してオヤジがこう言います。

人に動いてもらおうと思ったら、正しいだけじゃダメなんやぞ。
人間は感情の動物や。論理と感情がケンカしたら必ず感情が
勝つ。
どんなに提案内容が論理的に正しくても、優れていてもダメや。
相手は頭やなくて心で考えるんや。

ビジネス書などを読み混んで勉強し、キレイな書式を作るのは
いい。
だが、この現場に即した形なのだろうか。その書式を使う者は
これで本当に改善されると思うのか。皆にもっと話を聞き、
良い形を作り出していくべきだ、とオヤジは言います。

自分で勉強して良かれと思って提案してみたら、猛反発を
受けた。
よくある出来事だと思います。素晴らしい内容とはいえ、
現場に即していない、とんちんかんな内容であっては
やらされるほうもたまったものではありませんよね。

このように具体的な事例をストーリー仕立てで紹介している
ため内容がストンと心に落ちるのです。
ほかにも「知識と行動を循環させろ」「責任から逃げるな」
「事実を正確につかめ」などむしろ仕事の幅が広がってきて、
責任も増えてくる二十代後半から三十代前半くらいの若者に
読んで欲しいかなと思います。

この本を読んでいると、二十数年前の当時の様子を思い出し
ます。
わりとくだらない内容でも、いちいち先輩や上司に聞かないと
わからないことが多く、仕事が進められなかったこと。
そのこと自体、面倒な時もあったし、自分も失敗もしたし、
叱られることも多々ありましたがその場の仕事だけでない、
多くのことを先輩や上司から学んでいたのだということに
気付かされます。

今はちょっとしたことなら、ネットで検索すれば解答がでます。
でもその答えはひとつだけ。人との対話、コミュニケーションから
得られるものは、後から気づく部分も含めて、それをはるかに
上回るものなのです。その分、面倒が多かったりストレスが
増えたりするのでは?と言われそうですが、必然の状況で
ありましたし、人との結びつきも強かったように感じます。

本書における仕事のルールは、時代に関係なくぜひ常に
心がけて実践していきたい内容ばかりです。
本を読んで、自分の頭で考えることはとても大切です。
さらに大事なのは実践すること。現場で得られること、人から
得られることが何よりも自分自身の力になります。
主人公の「僕」も、机上の理論だけでなくオヤジや現場の
人間たちに揉まれたからこそ、人の上に立つ人物へと成長
したのではないでしょうか。

周囲の人間があって自分がある。自分があって会社がある。
目の前の事、会社全体のことと必要に応じて視点を変え、
適切な判断を行う。
明確なルールを持つ人にこそ、信頼感が生まれ、「ついて
いきたい」と人に思われるのです。
いずれ人の上に立つような人間になりたい、または現在部下を
持つ状況にある。そんな方たちにもオススメのビジネス書です。

 

活字と本とGoogleが描く未来とは

ペナンブラ氏の24時間書店』の

イラストブックレビューです。

ペナンブラ氏の24時間書店 (創元推理文庫)

ペナンブラ氏の24時間書店 (創元推理文庫)

 

 

ふとしたきっかけで働くことになったミスターペナンブラの
二十四時間書店は変わった店だった。
天井までもある本棚にぎっしりと詰まった本たち。
その中には暗号で書かれていて判読不明なものが多数ある。
それを解読するため、友人たちの力を借りて挑んでいく。

f:id:nukoco:20180421110336j:plain

二十四時間営業の書店と、店長の老人。
暗号で書かれた謎の本。
ワクワクする要素が満載の本書。おまけにスカイエマが表紙では
反射的に手に取ってしまうというものです。
スカイエマ大好きです。

この作品は、モチーフが非常に魅力的なのですが、翻訳本のせいか
言い回しがまだるっこしいこともあったり、Googleがものすごく
全能感ある表現だったりしたので、個人的にはなかなか読み進める
ことができませんでした。

500年も前からある書籍、使われているフォントに隠された謎を
解く。そのためには現代の最先端の方法を知る若者とその友人、
それから謎を解き明かすべきではないという古い因習を破ろうと
している書店の主人が、全力で謎解きに挑みます。

Googleの、できなことはないというスタンス(失敗に終わりますが)は
マッドサイエンティストじみていて、逆におもしろくもあります。
ていうか、Googleで何でもわかっちゃったら生きていく楽しみが
なくなってしまうと思うのですがどうでしょう?

書店の店長のペナンブラが何を目指してどうしたいのか、というのも
いまいち伝わりづらかったかなあ、という印象です。
彼の過去のエピソードもう少し増やして、その人となりの肉付けを
より厚くした方が、彼の行動に納得がいったのではないかと思います。

後半、謎に近づいていく過程においては、興味深い描写も出てきます。
鍵となるフォントの原型を保存している施設の様子がなかなかおもしろい。
さまざまな物が時代を経てどのように価値を変え、そして扱われていくのか。
その価値の意味すら不明になっていくときにはどうしたらいいのか。
施設の描写や、主人公の気持ちの描写には考えさせられる部分があります。

500年も前からの印刷にまつわる技術への思い、本に寄せる思い入れ、
本からもらった謎解き冒険への情熱。そんなことを教えてくれる物語です。
さらっとと読むにはあまり適していないかも。
これからはじまる秋の夜長にじっくりと腰を据えて読めば、
活字と本とGoogleが描く新しい未来を見つけることができるかもしれません。

 

イヌたちによる人間界への革命

ベルカ、吠えないのか? 』の

イラストブックレビューです。

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

 

 

キスカ島に残された四頭軍用犬。彼らを始祖として交配と
混血を繰り返し、繁殖した無数のイヌたちが国境も海峡も
宗教も越境し、戦争の世紀=20世紀を駆け抜ける。

f:id:nukoco:20180421110016j:plain

1943〜1991年までの43年間、イヌたちがどのような状況で
交わり、死に、そして生きてきたかを、イヌに語りかけるような、
時には質問するような、スピーディーな文体で綴ります。

ものすごい発想の物語で、なおかつ史実にも基づいているために
説得力も高いです。時の流れも43年間とボリュームがあるのですが、
一文一文が短くキレがあり、頭に入りやすいので、混乱せずに
読み進めることができます。

イヌたちは人間という主人を持ったり、持たなかったりします。
しかし、軍用犬として開発されたイヌや、オオカミと交配された
イヌたちは非常に頭が良く、自身が生き抜くため、または主人を
助けるために凄まじい能力を発揮します。

そしてイヌたちの生きてきた背景には、東西冷戦、民族紛争、
麻薬組織など激動する世界情勢があります。
軍用犬として、麻薬探知犬として、ソリを引くイヌとして、
その時代や場所ごとにに確実に優秀な仕事をこなしているのです。
そうした素地を持ったイヌたちが、本能レベルで状況を理解、判断し、
行動し、命を落としていくのです。

優秀なイヌは最強の武器となり得る。そしてそれを実行している
国や機関が実際は表に出ていないだけで、あるのではないか?
アメリカとロシアから始まる東西冷戦、共産圏でのソビエトと中国の
関係の変化、ベトナム戦争におけるアメリカ、ロシア、中国介入による
泥沼化…。そうしたきっちりと史実に基づく描写が、このイヌによる
革命=ペレストロイカをより現実的に感じさせてくれるのです。

歴史の足跡はイヌと共にある。そう言っても過言ではない、壮大な
スペクタクル。これはすごい作品に出会ってしまった。
そんなことを思わせてくれる物語です。

 

漂う男の感性を見事に描いた恋愛小説

夏の情婦』の

イラストブックレビューです。

夏の情婦 (小学館文庫)

夏の情婦 (小学館文庫)

 

 

たやすく手に入れた女も仕事も、夏とともに通り過ぎていった。
一瞬の情熱、乾いたきらめきを描いた表題作のほか、透明で
軽快な青春小説集。

f:id:nukoco:20180421105821j:plain

大学を出てから定職に就けない二十六歳の「ぼく」は、学習塾の
講師という仕事を手に入れた。夏休みの間、午前中に子供たちの
勉強を見た後、太った女のもとへ行き、女を抱く。
ある日、女から別れを告げられた。

将来のビジョンなんて思いもつかず、今という時をさまよって
生きているような「ぼく」。親に悪いなあと思い、何となく新聞の
求人欄にあった塾講師に申し込み、面接の男と二言三言交わした
だけで採用。何ともお手軽に仕事をゲットします。

当の学習塾も、夫が定年後お店を経営していて、子どもも独立して
家にいないし、金と場所があるからやってみようかな、とユルイ
雰囲気で立ち上げた、老いた主婦が経営者。
そんな風にはじめた塾講師だから、教え方もユルイ。
でも、放り出す訳ではないし、子どもの質問にはたまにふざけたりも
するけれども、きちんと答えもする。

根っからどうしようもないわけではないのだけども、自分の向かう先も
付き合う女も決めたくない。責任を持ちたくないのか、型にはめられたくないのか。
役割が決定することによって生じる全ての物を面倒に感じているような様子。
それでも読んでいて腹が立たないのは、主人公の心のそこに深い諦めと
虚しさがあるからでしょうか。

やってることはゲスいのですが、そうした感情と若さのきらめきが絶妙なバランスで
描かれているのです。生き方の定まらない若い男性の心情を、
小道具などのモチーフや、季節、情景のシーンで炙り出していく、
見事な恋愛小説です。

 

自分と世の中を客観的に見るヒント

こころ彩る徒然草 

兼好さんと、お茶をいっぷく 』の

イラストブックレビューです。

こころ彩る徒然草 ~兼好さんと、お茶をいっぷく

こころ彩る徒然草 ~兼好さんと、お茶をいっぷく

 

 

徒然草二百四十四段の中から六十六選び、現代の私たちに
語りかけるよう、わかりやすく意訳。

f:id:nukoco:20180421105540j:plain

徒然草は、鎌倉時代に書かれた吉田兼好によるエッセイ。
鎌倉時代といえば疫病が流行ったり、飢饉が起きたり、戦国時代へ突入したりと
誰もが明日はどうなるかわからないという大変な時代でした。
そこで出てくる無常観は絶望や諦めにも似た暗いイメージを伴うものです。

しかし、その中でもこの徒然草はそうした暗いイメージはありません。
世の中を一歩離れた位置から眺めることで、見えていなかった物を
見つける喜びや、人の心の機微ですら、いっときの事であるから
縛られるのは馬鹿らしいよ、もっと気楽に生きましょうよ、と言っています。
物事や自然現象、人の心は常に同じではない、だから苦しい時もあるけれど
ずっと苦しみ続けることもない、と同じ無常観でも前向きな印象です。

この徒然草の中から、鎌倉時代に限らず、現代にも響く内容を選んで意訳しているのが
本書です。例えば「勝負に勝つ秘訣は勝とうと思わないこと」
「上達する人としない人の違い」「人生の目的を果たすためにどうでもいいものは
キッパリと捨てて急いで行動すべき」「失敗しないためには…」など
自己啓発的要素もたっぷりとつまっています。
また、「今生きているこの喜びを日々楽しもう」といった
スピリチュアルな要素もあります。

人間の本質は意外と変わらないもんだなぁと思いつつ、
自己啓発的、スピリチュアル的、道徳的など多角的な目線から
なるほどと頷いたり、時には愚かな行為や人に対してちょっぴりシニカルな
物言いをしてみたり、わかりやすくおもしろく物事を書ける吉田兼好という人は
大したものだなあと改めて感心してしまいます。というか、
吉田兼好が直接語りかけてくれているような、この意訳の効果が大きいのかも。

法話の要素も含んでいるかとは思いますが、生きる事に困難や辛さを感じて
いる人には染み込んでいく内容なのではないでしょうか。
物事にとらわれすぎず、一歩引いて眺めてみる。
そうすることで思いがけず新たな発見ができるかもしれません。

法事の席でお坊さんから一言、またはお年寄りから聞くお話。
そんな、「そうかぁ」と思ってしまう、素直に頭と心に入る、
ちょっぴり楽に生きていくためのヒントがつまった一冊です。

人生の岐路に訪れる7つのドラマ

二年半待て 』の

イラストブックレビューです。

二年半待て (徳間文庫)

二年半待て (徳間文庫)


 
 

 

婚姻届を出すのは、あと二年半待って欲しい。
彼が結婚を先延ばしにする理由は何なのか。
就活、婚活、妊活、就活…。
それぞれの活動にまつわる女の物語。

f:id:nukoco:20180421105329j:plain

梓が婚活で知り合った典生はとても優しい人。
しかし正社員出ではなく、奨学金を返済するために仕事を
掛け持ちしています。そんな彼を、梓は自分の母親に紹介できずにいます。
とりあえず妹夫婦に紹介することにして、妹の里奈の家に
二人で訪れます。その時から、典生の様子がだんだんと
おかしくなっていきます。

典生は、奨学金返済のためのハードなバイトで朝起きられず
就職面接に行く事ができないこともありました。
梓との結婚も視野に入れていますが、正社員になってから、奨学金の返済に
目処がついてから、と何とも歯切れの悪い回答です。正社員になってから、
と言いますが仕事を2つ掛け持ちし、体力的にも日々限界に近く、正社員になるための
活動をできる状態とはとても思えません。

そんな典生を大丈夫よ、何とかなるわ、と優しく励ます梓。
何の結果も本気で求めようとしない、行動しようとしない
ぬるいお二人の関係です。そんな二人の将来はとても想像できません。

そんな折、母親から交際相手を紹介しろとせっつかれた梓は
まずは妹夫婦に紹介しようと考えます。
妹夫婦宅を訪れた典生は、その立派な暮らしぶりに圧倒され
落ち込みます。自分は梓にこんな生活をさせることは無理だと。

そこで一念発起して就職活動を本気ではじめるかと思いきや、
思考不能状態に陥っている典生はすぐにお金を手に入れる方向へと
走ってしまうのです。

典生は盗難で捕まり二年半の執行猶予を受けます。
梓とは別れ、何と別の女性とどうやら新しい人生を歩み始めるようです。
この女性は罪を犯し、その罪を償おうと日々努力を続ける典生を
見て、執行猶予である二年半の間、典生を待つことを決めたのです。

相手の犯した罪ごと受けとめる強さ、共に歩んでいこうと
する揺るぎない思い。こうした思いを持って過ごす二年半と、犯罪を犯した彼を
他人から後ろ指差されることにビクビクしながら過ごす二年半。
どちらを選んだ女性が幸せなのでしょうか。
まあ、棚ぼたで新たな幸せをゲットした典生も、ちょっとおいしすぎるかなと
思いますけれど。

就職、結婚、妊娠、身辺整理など、様々な人生の幸せを求めて活動する女性たち。
自分の幸せは何を持って測るのか。
そこを見間違えると、活動自体が意味のないものになってしまいます。
他人と、世間との比較ではない、自分の幸せの針が大きく動く場所。
それを知る者が、活動の成果を得られる事ができるのではないでしょうか。
そんなことを考えさせてくれる物語です。

取り扱いに注意が必要な珍しいもの

奇貨 』の

イラストブックレビューです。

奇貨 (新潮文庫)

奇貨 (新潮文庫)


 
 

 

男友だちも無く、女との恋も知らない45歳の中年男、本田は
35歳でレスビアンの女性、七島と同居し、その友情の深まりに
満足していたのだが。

f:id:nukoco:20180421105122j:plain

本田は、ゲイでもなく、男友だちも無く、女は好きだが情熱は無く、
女からは安心できる害のない存在として認められているが、
心を寄せられることはありません。本田は世の中の枠としては
はみ出してはいないけれども、人が他者の存在によって自分を
明確にするのだとすれば、ひどく曖昧な人間ということになります。
または自らも他者をそんなに必要としない人間。

そんな本田は、レズビアンの七島と出会い、同居をし、
友情を深めていきます。他人と関わりを続けていくことは本田にとって
新鮮な心情であったことが想像できます。
他人との関わりが続かない本田と、レズビアンである七島は、現代社会において
珍しい存在であり生きにくい面を持つところが共通していて、気が合ったのでしょうか。
あるいは、本田の孤独さ加減が、自分の趣向を公表したくない七島に
とって居心地の良いものであったのかもしれません。

一方本田は、七島に対し、そのまっすぐな思考回路や彼女の恋愛話を
聞き、彼女の生きる姿勢や強さに魅力を感じています。
肉体的には性行為をできない体なので(糖尿病により)、妹のような
尊敬する女友達のような気持ちで彼女を見守っています。

気軽な女友達のような関係を良好に保ってきたふたり。
しかし、七島に新たな女友達が出来ることで、2人の関係に変化が
訪れます。七島は本田と話をすることがなくなり、女友達と長々と
電話でしゃべっています。寂しさや見守ろうという気持ちが錯綜した
本田は、なんと七島の部屋に盗聴器をしかけてしまいます。

電話での会話を盗み聞きしているうちに、七島の友人との話し方は
自分と話す時と異なることに気づき、嫉妬を感じます。
しかし、やがてそれは親しい友達を得る、という状況に対して
嫉妬し、自分が激しくそれを望んでいたことに気がつくのです。

本田は七島のことを奇貨だ、と表現しました。
奇貨とは珍しいもののこと。友情を育んでいた、と思った七島を
珍しいものとして、眺めていたいと感じていたようです。
その時点で、本田という男はやはり誰とも距離を縮めることは
難しい人間なのかもしれません。

七島の変化を眺めるのでは無く、話しかけて、聞いてやるべき
だったのです。人との関係に対して憧れを持つことはあっても
実際に自ら行動を起こさない、または違った方向に行動を起こして
しまうのが本田という男なのでしょう。
居心地がいい、というのは案外何もない、空っぽの状態だから
と言えるかもしれません。

空っぽの本田と、ギュッと身のつまった七島。
それぞれの感情の動きを細かく、ていねいに書き綴っています。
七島は美しく珍しい生きもの、と表現されています。
美しい生き物には取り扱いに注意が必要です。
眺めているだけでは共に生きていくことはできない、そんな
ことを伝えてくれる物語です。