ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

続けて4回読んだ。4回とも泣いた。

空っぽのやつでいっぱい』の

イラストブックレビューです。

空っぽのやつでいっぱい (KITORA)

空っぽのやつでいっぱい (KITORA)

 

 
 

 

ニコニコ動画を中心に楽曲への映像を提供し、
その鮮烈な表現でファンを増やしてきた映像クリエイター、
アボガド6の初の漫画作品集。

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機械に育てられた娘、誰よりも人気者の彼女、理不尽に家族を
奪う事故、大人を消してほしい子どもたち、死を取り扱わない
死神の話…。少しづつ切り取られた日常の破片が重なり合っていく。

ニコニコ動画などの楽曲PVを見て、いいタッチと色づかいを
する人だなあと思っていました。漫画作品となるとどうなのか。
pixivやTwitterで出していた作品もあるようですが、自分に
とってはすべて初見となります。

実は中2病ぽい内容かも?などと思っておそるおそるページを
開いてみたところ…。機械に育てられた娘の話で号泣。
生まれた時からロボット「マザー」に育てられた娘。
ロボットによる育児は実験の一環であり、成長の様子について
データを取られているのですが、彼女には人間的感情が見られません。
期日までに感情が見られない場合は、規則に則り、
少女は処分されてしまうのです。
それを知ったマザーが行ったこととは。

可愛らしい表情を持った登場人物たち。でも、その表情はどこか
無機質だったりします。しかし、その表情が動き、心が入った時。
いい顔するんです。ロボットですら表情が浮かぶように見えるのです。
これには思わず感情を揺さぶられます。

他にも、家庭が不和、学校へ行くといじめられ…
という辛い思いをしていた女の子が、ある電話ボックスを見つけます。
受話器を外して見ると電話が繋がり、『何をお望みですか?』
と問われます。それは、依頼者自身の命を削って望みを叶える死神の電話。

彼女は望みを伝えます。数回利用すると、彼女が望んだように
家庭は円満になり、親友ができ、人気者の人生を手に入れることができます。
彼女は最終的に命を落としてしまうのですが、この話は深いです。

彼女が望んだのは両親が仲良くなること、両親が困らないよう
お金が欲しいこと、頭が良くて可愛くなりたい、父の病気を
治してほしい、親友がほしい、などなど。

自分でどうにもならない望みもあるけど、自分でどうにかなる
望みもありますよね?頭が良くて可愛くとか、親友がほしいとか、
自分の努力で多少はどうにかなるかと思うのです。
一方で、両親が子供の頃からケンカしてばかり、という環境で
育った彼女にとっては、自分でどうにかして何かを手に入れるのは
無理なのではないか、という思考になってしまっていたのかも
しれません。

いろんなものを手に入れて、日々幸せを感じている彼女。
でも、その手に入れたものや生きることに対しての執着がないのです。
もしかして、それは自力で手に入れたものではないからかもしれません。
他力で手に入れた「いいもの」、それは空っぽなのでしょう。
空っぽのものでいっぱいになった彼女の結末は。

お話が少しづつ重なっていて、視点を変えながら進行していきます。
生きていくことのヒリヒリするような痛さ、苦しみ、喪失など、
登場人物の不安定な感情が、著者のタッチに合っていて
臨場感があります。

1度読んで深いため息をつき、2度読んで内容を確認し、
三度四度と繰り返して読んでしまう。中毒性のある
強い世界観のある作品だと思います。
数日間は毎日手にとって読むことになりそうです。

戦場で活躍する男たちの魅力

村上海賊の娘 第2巻』の

イラストブックレビューです。

村上海賊の娘(二) (新潮文庫)

村上海賊の娘(二) (新潮文庫)

 織田信長に責め立てられていた大坂本願寺は、
籠城を余儀なくされていた。回路からの支援を
乞われた毛利家は、村上海賊に頼ろうとする。
織田方では、泉州淡輪の海賊、眞鍋家の若き当主、
七五三兵衛が初の軍議に挑む。

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戦闘のプロ集団、織田軍VS戦闘の素人+一部プロの
大阪本願寺。 その戦いが始まりました。
その前夜、軍議の後に始まった宴会の場で、美人美人と
褒められまくった景。すっかりいい気になって酌を受けては
グイッと飲み干し、うまい肴を供されては舌鼓を打つ。
ホントに豪快な姉ちゃんです。

しかし、醜女と言われてきた彼女にとってはここは楽園。
泉州の荒くれ海賊たちは、ハッキリとした容姿に加え、一筋縄では
いかないような女性が好みの様子。まさに景はどハマりしてます。
チヤホヤされるわけです。

泉州海賊の若き当主、眞鍋七五三兵衛も景のことを
気に入ったひとり。嫁にもらっちゃる、とプロポーズします。
が、子持ちはイヤ、と断る景。もったいない。
お似合いだと思いますけどね。
この七五三兵衛、酔っ払って眠りこける景を、夜這いをかけようとする連中から
守ってあげたり、自身は相手の心が手に入らないのであれば
抱く気はない、なんて結構いい男ぶりを見せてくれてグッときます。
でも景は、ポカンとしていて、男女の情や体の関係とか
全然理解してないようです。まあ、モテなかったから仕方ないか。

そんなゴタゴタから開けて翌日。いよいよ織田軍が大阪本願寺
戦いを仕掛けます。
この和田竜という作家は、戦闘シーンの描写が本当にうまいと思います。
攻め入る地域の地形、草木の生えている様子などが読んでいるものに
ありありと浮かびます。そして、戦う者たちの緊張や昂ぶり、
恐怖におののく様子など、視線を近づけたり遠ざけたりしながら
忠実にその状況を伝えてくれるのです。

素人集団大阪本願寺の兵に対し、織田軍の精鋭が攻め入ります。
織田軍は精鋭ではありますが、皆が忠実に戦うわけではありません。
自分の主を殺したという噂を持つ者、海は得意だけど陸は苦手な者、
織田に忠誠を誓っているのか、いまいち怪しい雰囲気の者…。
どの人物もクセがありながらも魅力を感じるのが不思議です。
クセがあるからこそ、その戦いぶりにインパクトを受けます。

腕は優秀な彼らですが、扱いが難しく上司が大変な思いをしています。
この辺のバラバラ感が、妙にリアルで説得力があるんですね。
新しいCEOがアメリカからきたけど専門分野とか目指すところとか
俺らと畑違いだしね、まあ、言われた事はやりますけど上司だし、
みたいな雰囲気でしょうか。

織田軍押し気味と思われた戦況からあわや敗北か、というところまで
巻き返され、何とか逃げ戻り…。
戦況は一進一退で、目が離せません。

そこへ、満を辞して織田信長の登場!!
近くでその姿を見た景は、織田信長のオーラにおののき、
一歩も動くことができません。なんか怖いよ織田信長

織田信長が登場し、戦局はどう変わっていくのか。
トラブルメーカー、景は何をやらかして、結婚の話はどうなって
いくのか。次巻へ向けてワクワクが止まりません!

今なら間違いなくモテモテでしょうなあ

村上海賊の娘 第1巻』の

イラストブックレビューです。

 

村上海賊の娘(一) (新潮文庫)

村上海賊の娘(一) (新潮文庫)

戦国時代、その名を轟かせた海賊衆がいた。
その名は村上海賊。瀬戸内海の島々に根を張り、
強勢を誇る村上武吉。彼の剛勇と荒々しさを引き継いだのは
娘の景だった。

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身長は180センチ。長い手足に小さな頭。
鼻梁は嘴のごとく鋭く、高い。目は大きく、釣りあがっており、
口も大きくて唇も分厚い。
これが、景の形容です。外人モデルの容貌ですよね。
背が高くて顔立ちがハッキリ。

しかし、時は戦国時代。当時、美人とされる女性といえば
色白でほっぺがふっくら下ぶくれ?で目や鼻のパーツが
小さい、小柄な女性。
つまり、景は真逆なビジュアルな訳です。
おかげで景は醜女、などと言われる始末。ひどいな。
今の世の中だったら随分ともてはやされたと思うのですが。

そしてこの景という女、気性が荒々しい。海賊稼業に精を出し、
本来女子は船に乗ってはならぬ、という決まりを無視して船に乗り込み、
規則を破った船を乗っ取り、その船に乗っていた者の額に
焼きごてを当てたりして楽しんでいる(!)のです。
これがね、『規則だから』とかそういう型にはまった理由ではなくてですね、
単に好きでやってるのです。焼きごて当てられて泣き叫んでいる姿を見て
笑っているのですから。怖すぎます。

景は戦を経験していないため、ぜひとも戦に出たい!
と考えています。当時の女性としては、考え方も頭の中も
まるっきり規格外な女性なのでしょうね。
でも、まわりから醜女と言われていることは知っているし
気にしてはいる。しかし、うじうじと考えはせず、
自分とは正反対の知的な雰囲気の男がいいなあとか思っている。
いい男を見かけると上から下までジロジロと見つめてしまう。
そんなところは子供っぽくて可愛くもあるのですが。

ちょっぴり考えが浅くて、直情型でトラブルメーカーの景。
そんな彼女に父親が考えた結婚相手とは。

これには大いに政治的要因が関係します。
当時、織田信長と大坂本願寺が対立。
織田方より兵糧攻めを受けている大坂本願寺は、毛利家へ兵糧入れの
依頼をします。毛利家は兵糧入れを決めましたが、兵糧を運ぶには
海賊である能島村上の力が必要であるため、村上と交渉を
行います。

そこで景の父親、村上武吉が毛利側に提示した条件は、
毛利家直属の警護衆水軍の長、児玉就英が、景を嫁にもらうこと
だったのです。就英は結婚の話が引く手数多のいい男であり
バッチリ景の好みのタイプ。一方就英は、海賊を罰する景の姿を
別の船から見ており、何という醜女であり悍婦なのだ!と
思っていたので、この話はまっぴらごめんだとその場で
断ってしまいます。か、かわいそうな景。

それでも景はめげません。
泉州あたありでは、景の容姿は美人とされるに違いない、という
爺さんの一言で、泉州海賊たちがいる大坂本願寺行きの船に乗っていって
しまいます。ちょっと!!自分自身の立場がどちらにつくのか
はっきりしていない戦場へ、ちやほやされるために、あわよくば
結婚相手を見つけるために行っちゃうの!?オイオイ。
そんな景には、昔から景に振り回され続けてきた弟の景親が
ついていきますが…。

情報量も登場人物も多いのですが、人物一人ひとりの
いでたちや性格がハッキリとしていてわかりやすく、混乱
することなく読み進めることができます。
完全無欠なカンジの人が出てこないのが、またいいのです。
みんなどこか優れていて、足りない。そのことがそれぞれの
人物の魅力を浮き立たせているように感じます。

景がこれから巻き起こすであろう問題にドキドキしつつ
次巻へ向かいたいと思います。

英語を「話す」ために必要なこととは

もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか』の

イラストブックレビューです。

 

もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか

もしも高校四年生があったら、英語を話せるようになるか

 英会話スクール、オンライン英会話、ハウツー本。
英語を話すこと挫折してきた英語教師、真穂が気づいた今の
英語教育の問題点と新時代の勉強方法とは。
 

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英検準一級、TOEIC930点。
英語の勉強には自信があるが、会話がてんで苦手。
聞き取れないし、会話のスピードについていけない。
そんな英語教師、真穂が偶然出会った英会話教室
そこには強烈な個性を持ち、とてつもなく流暢に美しく
英語を話すスタッフと学院長がいたのです。

日本英語教育において優秀な成績を取っている方は
多くいると思います。しかし、その反面、会話となると
打って変わって自信をなくしてしまう、という方も
やはり多くいらっしゃるのではないでしょうか。
その理由は何なのでしょう?
日本の中学高校における英語教育の問題点を、具体的に事例を交えて
わかりやすく解説してくれます。

例えば、
『訳しながら話していては時間がかかってしまい、会話が
成立しない』こと。
『無理に日本語の表現に当てはめて訳してしまうため、英語本来の
意味と異なってしまうこと』などなど。

だからこそ、見る→文章を考える→英語に訳す、のではなく
見る→英語で表現することが必要なのです。
つまり、リンゴの絵を見る→リンゴだな→appleだ、ではなくて
リンゴの絵を見る→appleと出てくるようにすること。
ひたすら目にするものを、日本語が頭に入る前に英語で瞬間的に
出す、ということです。これはまさに訓練ですね。
こうした、英語を身につけるためのヒントも散りばめられています。

主人公、真穂はこの英会話教室で英語の筋力を鍛え、
その力をつけるとともに教師としても成長していきます。
先生同士の対立や軋轢、生徒の成績なども、
大いに物語を盛り上げてくれます。

青春小説としても楽しめますし、何より英語を話す、ということについて
考え方・心構えから学び方まで幅広く教えてくれる、そんな本だと思います。
実際に英語を勉強してきたけれども、どうも話せるようにならない、
といった経験がある方には今後の勉強方法のヒントとなり、
また過去に英会話を勉強していてやりきれずに挫折してしまった方には、
再度努力してみたい、と思う気持ちにさせてくれるような一冊です。

まちがいなくおもしろい!最強の爆笑エッセイ

私のことはほっといてください』の

イラストブックレビューです。

私のことはほっといてください (PHP文芸文庫)

私のことはほっといてください (PHP文芸文庫)

 

 

髪ゴムが起こした奇跡と呪いとは?世界で最も遠い15歩とは?
鍋のふたがなくなった理由は?
半径5メートルで起こる出来事を無駄に膨らませる抱腹絶倒の
エッセイ。

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自分の部屋から風呂場までが15歩。
この15歩がとてつもなく遠い。辿り着くまでに3時間かかった。
何を言ってるのだこの人は?と読み進めてみると、
なぜか風呂に入ろうかなというタイミングで突然絨毯カフェ
(それも一体何なんだと思うけど)の事を思い出し、
床に寝転がって(すでにダメでしょ)スマホで絨毯カフェについて
検索をはじめる。ここですでに○分のロス。

そこからキミコ(著者)の妄想が始まる。何かが攻め入ってくる。
そしてキミコが風呂に入ろうとするのを邪魔するのだ。
いやいや、邪魔しているのはキミコ、あなた自身ですよ。
さあ、身体を起こして15歩先の風呂場へと向かうのです。
と、思わず声をかけてしまいたくなるほどの妄想ぶりです。

これは、あれだ。小学生とか、幼児がよくあるパターンかな。
お風呂入んなさいよーと声をかけると、今宇宙人と戦っていて
忙しいからあとでーとか返される、そういうノリですね。
そうやってやらねばならぬ面倒な事を後回しにするという。

話としては、風呂場へ向かうまでの15歩がどうだったかと
ただそれだけの事なのに、ものすごい膨らみようです。
そしてまた、どこからそういう発想が出てくるんだ!と
声を荒げてしまいたくなるような、とてもマネできない
オリジナルな妄想、比喩の表現、笑いのセンスの良さ。
そこに上手い文章が加わったら最強ですよ。

ものすごい理路整然と、自分のめっちゃおもしろい妄想を
伝えられる幼児や小学生なのです。いや、逆か。
北大路公子という人は子供心と高度な文章力を併せ持った、
最強のエッセイストなのです。

この一冊のうちに何度爆笑したことか。
ちょっとこれは外で読むのは人目が気になって無理だわ、と
思うほど、エッセイを読んで大声で笑ってしまいました。
毎度楽しませてくれる事間違いなし!の爆笑エッセイ。
旅のお供に、日々のストレス発散にオススメですよ!

その距離感が心地良い 男四人旅

敬語で旅する四人の男 』の

イラストブックレビューです。

敬語で旅する四人の男 (光文社文庫)

敬語で旅する四人の男 (光文社文庫)

 

 

友人でなく、仲良しでもないのになぜか一緒に旅に出る四人の男たち。
それぞれの再会、別れ、奇跡。
男たちの、つかず離れずな距離感が心地いい連作短編集。

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真面目な真島。バツイチ研究者の繁田。彼女の束縛が
キツイ仲杉。変わり者のイケメン、斎木。

真島と斎木が同じ会社。彼らは会話を交わしたことはなかったが
同じ中高一貫校に通っていたのです。斎木の大学時代の先輩、繁田。
繁田の飲み仲間の仲杉。
なんともゆるい繋がりの彼らが、ひょんなことから一緒に
旅に出ることになります。

彼らの、というか真島と斎木の関係が非常におもしろい。
二人は中高一貫校時代、顔を合わせて会話したことがありません。
ですが、真島は美術部に入部し、スケッチブックを片手に
先輩である斎木の造形の美しさに惹かれ、遠くから必至に彼を描いていたのです。
一方、斎木は出身校の数年分の卒業アルバムをチェックし、
数百人以上もの人物の顔と名前を把握していたために
真島の事を知っていたのです。これもすごい。

どうやら真島の気持ちは、斎木に対して性的なものではなく、
美しいものへの憧憬と、型にはまることのできない斎木の
つらさに寄り添ってあげたり、助けになってあげたい、という
素直な気持ちが働いているようです。

斎木はおそらくADHD(注意欠陥.多動性障害)であり、
特別枠採用として、真島の会社に入ってきました。
データ管理などの得意な仕事は非常に優秀で、調子が良いと
あっという間に仕事を終えてしまいます。
しかしこだわりが強く、不快な環境に置かれると動悸が激しくなったり、
また他人の感情などにも興味がないので、冷たい態度や言葉を発することもあります。

皆で旅行していても、リサーチは完璧。
時間や食事の手配などなど、漏れがありません。
その代わり興味がないことや、予定外のことには見向きも
しませんし、こだわりが受け入れられない場合は切れてしまったりも。
ADHDについてあまり理解のない自分でしたが、実際に共に
行動してみると、こういう事なんだ、ということを知りました。

大学時代の先輩、繁田も斎木の身を案じていた一人。
大学関係の仕事は優秀でありながら、人とのやりとりがうまくいかず、
会社に就職することになった経緯を知っていて、会社でうまく
やっているかどうか気にしていたようです。
自分はといえば、結婚して子供も生まれたが、仕事で東京に
行くことになり、妻に伝えたところ、京都から離れたくないから
一人で行ってくれ、となり、離婚に至ったという。

離婚した妻から、息子を山登りに連れて行って欲しいという連絡を
受け、仕事で行けない真島を除いたメンバーで京都へ向かい、
繁田の息子と共に山登りをします。繁田が結婚した相手、相手の家に
感じる違和感とは何なのか。

そして自身はいつも明るく、しかし彼女に束縛されている仲杉。
仕事が忙し過ぎて、何だか逆回りしているような気分に陥ります。
真島が気分転換に旅行に出かけよう、と声をかけてくれ、
一緒にでかけます。そこで仲杉が見たものと、自分が付き合っていた
女性の正体とは。

斎木はどのお話でもいい味を出しています。
思った事を、配慮とか空気読むとかそんな事は全然おかまいなしに
的確なコメントをズバッと出したりするのです。
斎木は、いい人、とかそういうカテゴリなのではなく、
斎木なんだからそうなんだよね、という事です。
感じる場所が、位置が違うから、怒ったり怒らせたりしてしまうことも
あるのだけど、データなどの記憶力がべらぼうに良くて、
愛想は基本なくて、相手に対する配慮は自分のマニュアルにある
箇所からしか引き出さない。そういう人なのだと。

周囲の3人がちょっとずつ斎木を気にかけていて、会社の人も
そんな彼に理解を示していて、そうやって斎木のことを理解して
くれる人がだんだん増えていく様子が、読んでいてうれしかったりもします。
そして、斎木の方でも相手の事を考えることが少しずつ
見られたりします。

四人が上でもなく下でもなく、平行に並んでいて、その距離を
広げてみたり、ちょっと詰めてみたりしている男たち。
そうした距離感が非常に心地よい物語です。

 

 

異世界へ連れて行かれる 不思議でクセになる物語

蟋蟀』の

イラストブックレビューです。

蟋蟀 (小学館文庫)

蟋蟀 (小学館文庫)

 

 

馬、河童、蟋蟀、猫などさまざまな生き物をモチーフに
日常と非日常の境界線を描き出す、読めば読むほど
クセになる 11物語。

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手を握ると相手の人生が見える女性の話、祖母の腰に
入った蟋蟀の入れ墨の話、大手商社の妻たちが加入し
楽しむ猫語サークル、河童の死後の話…

ひとつひとつのお話は静かに進行していき、幻想的で
現実ではあり得ない世界ながら、すんなりと入っていけるのは
美しくて静かな描写ゆえでしょうか。
短編ですから、一編はあっという間に終わり、えっ そこで!?
というラストも多々あります。

しかしそれは、尻切れとんぼなのではなく、読者の側で
ラストを考えさせられるものばかり。ですからひとつひとつの
話を読み終わるごとに、主人公の今後について、しばし思いを
馳せることとなります。

どのお話の中にも人間の愚かさや、どうにもならない悲しみや
切なさといった感情が漂っています。
それらが重すぎずにさらりと読めるのは、やはり文章の
美しさ、やわらかのおかげかなと思います。

天狗に河童、ユニコーンまで出てきますが、おとぎ話のような
完全なる非現実というわけでもなく、しっかりと現実を感じさせて
くれます。

各話短いながらも、人の生き様を見せつけられるような、
しっかり芯の通っている話のように感じました。
何度か読むと、各話のラストが示すものの解釈が変わって
いくのかもしれないな、とも思います。
不思議な世界でクセになる、そんな短編集でした。