ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

世界のあちこちで走る!飲む!食べる!

海外マラソンRunRun旅』の

イラストブックレビューです。

 

 たかぎなおこさんの、まんぷくローカルマラソン旅に続く第2弾。
今度は世界のあちこちで走って飲んで食べてみた!!

f:id:nukoco:20170924164136j:plain

 

マラソンを始めてから5年。今度は海外の大会に挑戦。
フランスのメドックマラソン、カナダのバンクーバーマラソン、
台湾の台北マラソンなど、今回も愉快な珍道中を繰り広げます。

フランスメドックマラソンは、フランスのボルドー地方で行われ、
給水所ではワインも出るのだとか!そしてテーマに沿った仮装を
して走るという、何とも楽しげな大会。

事前にワインの知識を入れてから、飲むべきワインを絞り込みます。
いやしかし、普通に飲んでいても喉渇いたりトイレ行きたくなったり
すると思うのですが、マラソン中に!飲みながら!とは何ともすごい。
とはいえ、ボルドー地方の、一級シャトーが参加するとあっては、そのワインを
飲むために参加したいと思ってしまうではないか!たとえ走りきれない自信が
あったとしても。酒好きのためのマラソン大会ですね!

大会は前夜祭から始まり、スタートは仮装の人々ので溢れかえり、和やかな雰囲気。
しかし、フルマラソンを走るには、いろんな装備は邪魔になるようです。
そういや元上司が着ぐるみ着て東京マラソンに出た時、股ずれならぬ
服ずれして大変だったと言っていたなあ。

光を遮る場所のないぶどう畑をえんえんとおいしいワイン目指して走るたかぎさん。
やはり暑くて喉が渇いている時にワインばかりではきつい。やったどりついた給水所で
水が売り切れ!!!うおお、つらいですね〜。

残念ながら今回はゴールできなかったたかぎさんは、反省会と称して
完走した方にお話を聞きます。そこで、今回の事態を振り返り、次回に
生かすべく心に刻むのでした。

ギチギチではないんですが、たかぎさんはちゃんとしてますね。
走れなかった時には悔しさをバネにして、原因を探り、次回に結果を
出すように努力しているのですから。

漫画家さんというお仕事柄、予定通りに練習する時間が取れない
場合も多々あるかと思いますが、そこんとこも明らかにして誤魔化さない。
寝不足だったりして、万全でなくともその状況なりにベストを尽くす!
それがたとえ終わった後のビールが目当てだったとしても(笑)。
そんなきちんとゆるい?ところがたかぎさんの良さでもあるのかなと思います。

海外に飛び出したたかぎさんたち。何時にも増して、飲み食いがすごい(笑)。
特に最終章の台湾では自己ベストを出したという喜びも相まってか、
いやあ食べる食べる…。帰ってから体重3キロ増って(汗)。

でも、自己ベストで完走後のビールと料理って、格別な味なんでしょうね〜。
自宅に居ながらにして、各国のマラソン大会とお料理、そしてたかぎさんと
仲間達のマラソン成長具合が楽しめる、満足度の高いコミックエッセイです。

 

政治家ではなく国民を相手にする総理大臣

総理の夫 First Gentleman』の

イラストブックレビューです。

 

 

日本初女性総理大臣夫である凛子の夫、日和は日本初の
ファースト・ジェントルマンとして、妻を支えることになったのです。

 

f:id:nukoco:20170924163624j:plain

頭脳明晰、実行力も素晴らしく人望も厚い。そんなパーフェクトな妻、
凛子にベタ惚れな夫、日和。鳥類学者である彼は、鳥の観察と、自由に羽ばたく
妻を見るのが大好き。いつだって妻のやる事を応援してきました。

おっとりした日和と、才色兼備なキャリアウーマンの凛子。
一見正反対の二人ですが、互いになくてはならない存在であることが
伺えます。バリバリで毎日猛ダッシュしている凛子は、じいっと座って
鳥を眺めている日和が癒しに違いありません。

凛子はベテラン議員に担ぎ上げられ、見事首相へ就任。
しかし、これは次に首相の座を狙うベテラン議員の周到な罠だったのです。

輝くばかりのホワイトぶりな凛子からは、いくら叩いてもホコリひとつ
出てきません。当の凛子はと言えば、所信表明演説でも国民の心に響く訴えで
人気を博し、支持率はうなぎ登り。
そこで天然おぼっちゃまの日和に白羽の矢が立ちます。
どうとでも取れる女性とのツーショット写真を撮られ、ベテラン議員に
揺すられてしまうのです。

これをきっかけに、日和の中のスイッチが入ったように見えます。
ファーストジェントルマンとしての役割、使命がハッキリとわかったのではないでしょうか。
彼女に迷惑をかけてはいけない、という思いから一転、真実を伝えなければ
ならないと決意する。ここから彼らの反撃がはじまるのです。

何しろ相手は百戦錬磨のベテラン。彼に睨まれたら政治生命終わり、と思わせる
ほど、味方になれば頼りになり、敵になればかなり手強い相手です。
この辺りの駆け引きで世の中の政治家たちは疲弊しているのではないかとふと思いました。

どの議員さんも、はじめて当選した頃には、国民の生活を良くしよう、より暮らしやすい国を
作ろう!と使命に燃えていたはずなのです。しかしながら、何年も国会にいると
政治家間での政治に夢中。というか、そうしないとやるべきこともできず、
その上自分の進退までちらつかせられたら、やるべきことすらできない、なんて
公式ができあがってしまうのでしょう。

その点、凛子は今までの政治家と異なります。ひたすらまっすぐ。裏取引が大嫌い。
消費税増税を掲げる凛子は、政治家の中でも国民にも反発を買いそうなものなのですが
常に目線は国民に向いています。
大きな波にのまれて日本という船が沈没してしまう前に、今やらなければならない。
自分も国民の一人である、共に頑張りましょう!と国民である我々に訴えるのです。

実際そんな綺麗事で政治が務まるのかよ〜と思ってしまっている自分が悲しくなります。
こんな風に肩を並べて話しかけてくれるような、大丈夫だよ!と横で言ってくれる
ような、そんな政治家がいたでしょうか。見たことありません。
とにかく真っ直ぐに誠実な気持ちが伝わってくるから、任せるのではなくて一緒に
頑張りたくなるのです。

夫である日和は政治に直接関わるわけでなく、日々忙殺される凛子とは日常会話も
ままならないほど。それでも二人は、時にすれ違うこともあるけれど、やはり互いを
大切に思っている事が伝わってきます。これは日和の実家に凛子が訪れる時の態度にも、良く
表れています。夫がこの家族で生まれ育ったことに敬意を表して、礼儀正しくふるまうのです。
ホント、凛子さんたら完璧すぎ。

 

いくつもの局面を乗り越えて、二人に訪れる未来。

これがラストシーンになるのですが
日本の未来が明るく、希望の光が差し込むような、そんな良いラストだったと思います。そろそろ我が国も女性総理大臣が出ても良い頃かと。

でも、凛子さんのような、才色兼備で国民に直接訴えかけてくるような訴求力の高いスーパーウーマンが登場するかは怪しいですが。
それでも上からじゃなくて、国民と同じ目線で国を良くしようということがきちんと伝わる、そんな政治家達がたくさん出てくるといいなと切に願います。

政治家って、総理ってなんだろ?と改めて考えさせられ、かつ二人と周囲の人々の
たくさんの愛が感じられる、とても読後感の良い物語でした。

あした死ぬかもよ?』の

イラストブックレビューです。

 

あした死ぬかもよ?

あした死ぬかもよ?

 

 人生最後の日に笑って死ねる27の質問。
あした死ぬとしたら、何をしますか?

f:id:nukoco:20170924163350j:plain

 

人には必ず死が訪れる。その事を本当に理解していますか?
なんとなく過ごしたその1日は、誰かが必死に望んでも
手に入れることができなかった1日かもしれない。

ひすい氏は読者に様々な質問を投げかけます。
死ぬ前にやりたいことリスト10は?
あなたの人生は100点満点中、今何点?
なんのために、この命を使いたい?
など、どれもこれも思わず考え込んでしまう質問ばかり。

まずは自分が80歳くらいまで生きるとして、残された時間は
どれくらいなのか、両親に会える時間は?
あと何回桜を見ることができるのか?
具体的な数字を見ることで、自分の人生に限りがある事を理解します。
改めて考えて見ると、結構少ないですね。

時間に気づいたら、夢を思い出す、また再確認する。
いつかやる、って言ってる時間はあるのか?

自分は何をしに生まれてきたのか?
何をすれば満足して最期を迎える事ができるのか?

心の奥底にある、本当の自分の声が聞こえているか?
またはその声に従って生きているか。

自分にとっての現状を冷静に理解し、やりたい事を明確にし、
やるべき事を自覚して、自分に素直に生きる。
こういった事を段階を経て、わかりやすく頭と心に落ちていく構成と
なっています。

各章の間には、ひすい氏らしく、様々な人物の名言が挿入されて
います。ここで出会う言葉たちにも沁みるものが多くあるので
気に入ったものは自分の座右の銘にするのもいいかもしれません。

死を柱にして自分の事を見つめ直す事で、今まで見えていなかった
自分を見つけることができるかも。
様々な自己啓発本を集めたような、それでいてどれにもない切り口。
自分に課せられた今の役目にがんじがらめになっていて、逃げ出すことも
できない、と思っているような人にはぜひ読んでもらいたい。
状況を変えてもいつかは死ぬし、変えなくても死ぬんですから。
どうせ死ぬならいい環境で、後悔なく逝きたいものです。

 

世界のあちこちで走る!飲む!食べる!

海外マラソンRunRun旅』の

イラストブックレビューです。

 たかぎなおこさんの、まんぷくローカルマラソン旅に続く第2弾。
今度は世界のあちこちで走って飲んで食べてみた!!

f:id:nukoco:20170830084647j:plain

マラソンを始めてから5年。今度は海外の大会に挑戦。
フランスのメドックマラソン、カナダのバンクーバーマラソン、
台湾の台北マラソンなど、今回も愉快な珍道中を繰り広げます。

フランスメドックマラソンは、フランスのボルドー地方で行われ、
給水所ではワインも出るのだとか!そしてテーマに沿った仮装を
して走るという、何とも楽しげな大会。

事前にワインの知識を入れてから、飲むべきワインを絞り込みます。
いやしかし、普通に飲んでいても喉渇いたりトイレ行きたくなったり
すると思うのですが、マラソン中に!飲みながら!とは何ともすごい。
とはいえ、ボルドー地方の、一級シャトーが参加するとあっては、そのワインを
飲むために参加したいと思ってしまうではないか!たとえ走りきれない自信が
あったとしても。酒好きのためのマラソン大会ですね!

大会は前夜祭から始まり、スタートは仮装の人々ので溢れかえり、和やかな雰囲気。
しかし、フルマラソンを走るには、いろんな装備は邪魔になるようです。
そういや元上司が着ぐるみ着て東京マラソンに出た時、股ずれならぬ
服ずれして大変だったと言っていたなあ。

光を遮る場所のないぶどう畑をえんえんとおいしいワイン目指して走るたかぎさん。
やはり暑くて喉が渇いている時にワインばかりではきつい。やったどりついた給水所で
水が売り切れ!!!うおお、つらいですね〜。

残念ながら今回はゴールできなかったたかぎさんは、反省会と称して
完走した方にお話を聞きます。そこで、今回の事態を振り返り、次回に
生かすべく心に刻むのでした。

ギチギチではないんですが、たかぎさんはちゃんとしてますね。
走れなかった時には悔しさをバネにして、原因を探り、次回に結果を
出すように努力しているのですから。

漫画家さんというお仕事柄、予定通りに練習する時間が取れない
場合も多々あるかと思いますが、そこんとこも明らかにして誤魔化さない。
寝不足だったりして、万全でなくともその状況なりにベストを尽くす!
それがたとえ終わった後のビールが目当てだったとしても(笑)。
そんなきちんとゆるい?ところがたかぎさんの良さでもあるのかなと思います。

海外に飛び出したたかぎさんたち。何時にも増して、飲み食いがすごい(笑)。
特に最終章の台湾では自己ベストを出したという喜びも相まってか、
いやあ食べる食べる…。帰ってから体重3キロ増って(汗)。

でも、自己ベストで完走後のビールと料理って、格別な味なんでしょうね〜。
自宅に居ながらにして、各国のマラソン大会とお料理、そしてたかぎさんと
仲間達のマラソン成長具合が楽しめる、満足度の高いコミックエッセイです。

 

政治家ではなく国民を相手にする総理大臣

総理の夫 First Gentleman』の

イラストブックレビューです。

 日本初女性総理大臣夫である凛子の夫、日和は日本初の
ファースト・ジェントルマンとして、妻を支えることになったのです。

f:id:nukoco:20170830084350j:plain

頭脳明晰、実行力も素晴らしく人望も厚い。そんなパーフェクトな妻、
凛子にベタ惚れな夫、日和。鳥類学者である彼は、鳥の観察と、自由に羽ばたく
妻を見るのが大好き。いつだって妻のやる事を応援してきました。

おっとりした日和と、才色兼備なキャリアウーマンの凛子。
一見正反対の二人ですが、互いになくてはならない存在であることが
伺えます。バリバリで毎日猛ダッシュしている凛子は、じいっと座って
鳥を眺めている日和が癒しに違いありません。

凛子はベテラン議員に担ぎ上げられ、見事首相へ就任。
しかし、これは次に首相の座を狙うベテラン議員の周到な罠だったのです。

輝くばかりのホワイトぶりな凛子からは、いくら叩いてもホコリひとつ
出てきません。当の凛子はと言えば、所信表明演説でも国民の心に響く訴えで
人気を博し、支持率はうなぎ登り。
そこで天然おぼっちゃまの日和に白羽の矢が立ちます。
どうとでも取れる女性とのツーショット写真を撮られ、ベテラン議員に
揺すられてしまうのです。

これをきっかけに、日和の中のスイッチが入ったように見えます。
ファーストジェントルマンとしての役割、使命がハッキリとわかったのではないでしょうか。
彼女に迷惑をかけてはいけない、という思いから一転、真実を伝えなければ
ならないと決意する。ここから彼らの反撃がはじまるのです。

何しろ相手は百戦錬磨のベテラン。彼に睨まれたら政治生命終わり、と思わせる
ほど、味方になれば頼りになり、敵になればかなり手強い相手です。
この辺りの駆け引きで世の中の政治家たちは疲弊しているのではないかとふと思いました。

どの議員さんも、はじめて当選した頃には、国民の生活を良くしよう、より暮らしやすい国を
作ろう!と使命に燃えていたはずなのです。しかしながら、何年も国会にいると
政治家間での政治に夢中。というか、そうしないとやるべきこともできず、
その上自分の進退までちらつかせられたら、やるべきことすらできない、なんて
公式ができあがってしまうのでしょう。

その点、凛子は今までの政治家と異なります。ひたすらまっすぐ。裏取引が大嫌い。
消費税増税を掲げる凛子は、政治家の中でも国民にも反発を買いそうなものなのですが
常に目線は国民に向いています。
大きな波にのまれて日本という船が沈没してしまう前に、今やらなければならない。
自分も国民の一人である、共に頑張りましょう!と国民である我々に訴えるのです。

実際そんな綺麗事で政治が務まるのかよ〜と思ってしまっている自分が悲しくなります。
こんな風に肩を並べて話しかけてくれるような、大丈夫だよ!と横で言ってくれる
ような、そんな政治家がいたでしょうか。見たことありません。
とにかく真っ直ぐに誠実な気持ちが伝わってくるから、任せるのではなくて一緒に
頑張りたくなるのです。

夫である日和は政治に直接関わるわけでなく、日々忙殺される凛子とは日常会話も
ままならないほど。それでも二人は、時にすれ違うこともあるけれど、やはり互いを
大切に思っている事が伝わってきます。これは日和の実家に凛子が訪れる時の態度にも、良く
表れています。夫がこの家族で生まれ育ったことに敬意を表して、礼儀正しくふるまうのです。
ホント、凛子さんたら完璧すぎ。

いくつもの局面を乗り越えて、二人に訪れる未来。これがラストシーンになるのですが
日本の未来が明るく、希望の光が差し込むような、そんな良いラストだったと思います。
そろそろ我が国も女性総理大臣が出ても良い頃かと。でも、凛子さんのような、才色兼備で国民に直接訴えかけてくるような訴求力の高いスーパーウーマンが登場するかは怪しいですが。
それでも上からじゃなくて、国民と同じ目線で国を良くしようということがきちんと伝わる、そんな政治家達がたくさん出てくるといいなと切に願います。

政治家って、総理ってなんだろ?と改めて考えさせられ、かつ二人と周囲の人々の
たくさんの愛が感じられる、とても読後感の良い物語でした。

あした、死ぬとしたらどうする?

あした死ぬかもよ?』の

イラストブックレビューです。

あした死ぬかもよ?

あした死ぬかもよ?

 

 人生最後の日に笑って死ねる27の質問。
あした死ぬとしたら、何をしますか?

f:id:nukoco:20170830084130j:plain

人には必ず死が訪れる。その事を本当に理解していますか?
なんとなく過ごしたその1日は、誰かが必死に望んでも
手に入れることができなかった1日かもしれない。

ひすい氏は読者に様々な質問を投げかけます。
死ぬ前にやりたいことリスト10は?
あなたの人生は100点満点中、今何点?
なんのために、この命を使いたい?
など、どれもこれも思わず考え込んでしまう質問ばかり。

まずは自分が80歳くらいまで生きるとして、残された時間は
どれくらいなのか、両親に会える時間は?
あと何回桜を見ることができるのか?
具体的な数字を見ることで、自分の人生に限りがある事を理解します。
改めて考えて見ると、結構少ないですね。

時間に気づいたら、夢を思い出す、また再確認する。
いつかやる、って言ってる時間はあるのか?

自分は何をしに生まれてきたのか?
何をすれば満足して最期を迎える事ができるのか?

心の奥底にある、本当の自分の声が聞こえているか?
またはその声に従って生きているか。

自分にとっての現状を冷静に理解し、やりたい事を明確にし、
やるべき事を自覚して、自分に素直に生きる。
こういった事を段階を経て、わかりやすく頭と心に落ちていく構成と
なっています。

各章の間には、ひすい氏らしく、様々な人物の名言が挿入されて
います。ここで出会う言葉たちにも沁みるものが多くあるので
気に入ったものは自分の座右の銘にするのもいいかもしれません。

死を柱にして自分の事を見つめ直す事で、今まで見えていなかった
自分を見つけることができるかも。
様々な自己啓発本を集めたような、それでいてどれにもない切り口。
自分に課せられた今の役目にがんじがらめになっていて、逃げ出すことも
できない、と思っているような人にはぜひ読んでもらいたい。
状況を変えてもいつかは死ぬし、変えなくても死ぬんですから。
どうせ死ぬならいい環境で、後悔なく逝きたいものです。

1000年かけた恋

ぬしさまへ』の

イラストブックレビューです。

ぬしさまへ (新潮文庫)

ぬしさまへ (新潮文庫)

 

 江戸の大店の一人息子、一太郎が妖怪たちと事件を解決していく
お江戸妖怪奇譚第2弾。

f:id:nukoco:20170830083949j:plain

短編集といえど、心に残る話ばかりで、どれを取り上げようか
迷うほどです。全6話のうち、印象に残った2話をレビューしたいと思います。

まず、 現代女性にもファンが多そうな仁吉の失恋話。
江戸のイケメン仁吉は、外で仕事をして帰れば、袖の中に大量の付け文を
持って帰るような色男。そんな仁吉が思いを寄せていた相手は、同じ妖怪のお吉。
けれどもお吉は人間に恋していたのです。

人間との恋に落ちたお吉ですが、当然人間の方が命が短いため先に死んでしまいます。
けれどもお吉は生まれ変わった相手とめぐり合い、何度も同じ相手と
恋に落ちるのです。

と、なんともロマンチックな設定!少女漫画のように胸やけがしないのは
お吉さんが小股の切れ上がった、美しくカッコいい女性だから。
仁吉も応援したいけどお吉さんにも幸せになってもらいたいよ〜と
身悶えしてしまいます。

同じ相手と何度も恋に落ちて、まったく脇目をふらないお吉さんのそばで
じっと守り続ける仁吉。彼女を守り、見続けて1000年の時がたってしまったのです。
その長い時間に愕然としながらも、恋しい、ただ愛おしくてたまらないのだ、
とお吉への気持を再確認してしまう仁吉。
うおお こんな風に思われてみたーい、と40過ぎのおばちゃんでも
キュンキュンしてしまうのです。仁吉カッコいい。

それと、もうひとつ印象的だったのはこちらの物語。
ある日、一太郎がこっそり出かけて帰ってくるといつもと勝手が違う。
仁助は一太郎に小言を言うこともないし、妖怪たちもどこかへ出かけたのか
姿が見えない。クシャミをしても、誰も床を敷かない。
これが普通なのか、と自分に言い聞かせつつも、妖怪たちが全く
出てこない寝床は静かすぎて落ち着かない…。

他にもいくつかおかしな出来事がおこるのですが、仁吉や佐助たちは
一太郎の周囲に現れるおかしな気配に気づき、罠を仕掛けていたわけです。

正体の一つは、一太郎に思いを寄せていて、店で働いていた娘の思念。
その事を知った一太郎は、大人になりたい、と切に願います。
その娘の気持ちにはどのように返したら良いのかはわからないけれど、
気持ちに気づいてあげたい。そして対応できるように大人になりたい。

とにかく誠実に、そう思う一太郎は本当に心が優しい。
店で働く娘の気持を知ったところで、あくまで従業員のひとり。特別な
感情をその娘に対して持った訳でもない。
関係ないと言えばそれまでなのに、その気持ちを読み取って何か言って
あげたら良かったと思うのです。

この一太郎の優しさ、誠実さは彼の才能です。
この才能に惹かれて、妖怪たちも人間たちも彼を守りたい、サポートしたい、
と思うのではないでしょうか。むろん読者である私も。

事件解決後に戻ったいつもの生活に、一太郎は安心感を覚えます。
仁吉に自分たちのありがたみがわかりましたか?と言われて
真っ赤になって怒るところも可愛らしいくて、つい笑ってしまいます。
この手代たちと一太郎のじゃれあい?も楽しい要素のひとつです。

短編集ですが、どれも人の心に焦点を当てた印象深いものばかり。
何度読み返しても楽しめる、お得感の高い江戸物語です。